蒲公英草紙 常野物語

蒲公英草紙 常野物語 (常野物語)

蒲公英草紙 常野物語 (常野物語)

ラストに呆然とさせられた。
『光の帝国 常野物語』(集英社文庫)は未読。したがって〈常野物語〉シリーズはこれが初読ということになる。冒頭の筆致が可愛らし過ぎるのはやや気になったが、西洋画家と仏師の造形が何より秀逸で、この物語の印象を豊かなものにしている。後半に登場する政治家と書生の対決場面、そして「けれども、同時に、君の一途さ、無垢さが、吾が国を地獄まで連れていくに違いない。僕にはそう思えてならない」と西洋画家が口にする場面は本書のハイライト。深みがあって素晴らしいシークエンスである。と、ここまでは心地良く読むことができた。
しかし、ラストを読んで呆然とした。この幕引きは作品全体を粉々にしてしまうものではないか。本書は「常野の一族を迎え入れる家族と、そこに招かれてやって来た普通の少女(語り手)」の物語であるはずだ。だから〈常野物語〉第二弾とはいえ、設定上、本書は常野の人びとを従の存在としたシリーズ番外編にならなければならなかったのではないか。しかし作者は最後の一ページで、物語の主軸を常野の少年に無理矢理置き換えてしまっている。これは、最後の最後で槙村家の人びと*1を切り捨てたに等しい。いったいどのような意図があって、こういう結末をつけたのだろう?
正直、常野の家族とそのエピソードは左程印象に残らなかった。また、シリーズものとはいえ、書見台の力やその意味とは何なのかほとんど解明されない点も不親切に感じられ、満足とは程遠い読後感が残ってしまった。

*1:単なる想像だが、槙村家の令嬢・聡子の名前は三島由紀夫の『春の雪』の綾倉聡子から来ているのかもしれないな、となんとなく思った。