消えた探偵

消えた探偵 (講談社ノベルス)

消えた探偵 (講談社ノベルス)

強迫神経症統合失調症解離性同一性障害……さまざまな精神病患者を蒐集する診療所で、果たして殺人は行われたのか、それとも?
主人公も含め、登場人物のほとんど全てが精神に病を抱えているという異色のミステリ。ここまで徹底した作品はさすがに珍しいのではないか。但し前半はつまらない。理由はふたつあって、強迫神経症の主人公に対する感情移入が難しいため(主人公が語る内容にも十全の信用をおいて良いのか判らない)、そして主人公が他の患者をひとりずつ訪れて聞き込みをする過程が淡々と描かれ続け、ストーリーがほとんど動かないためだ(さながらクリスティの『オリエント急行の殺人』の如く)。
しかし前半を過ぎると少しずつストーリーは前に進み始め、やがてピースをあるべき箇所にすべて嵌め込み一枚の絵を完成させるようなパズル的な解決場面が描かれる。これまでの秋月作品には見られなかった、一種のパズル的な面白さが本書にはあるのだ。著者の作品中もっとも静的な作品で、それだけに途中で退屈してしまったことも否定できないが、秋月涼介は一冊ごとに成長し、新しい抽斗を読者に見せてくれている。引き続きこの作家には注目しておきたい。デビュー作『月長石の魔犬』の頃には予想さえしなかったが、少しずつ新刊が楽しみな作家になってきた。
なお、一点どうしても引っ掛かるところがあるのでコメント欄に書いておく。ネタバレなので支障の無い方のみご覧ください。