銃とチョコレート

銃とチョコレート (ミステリーランド)

銃とチョコレート (ミステリーランド)

ミステリーランド配本作品。
筋は面白かったが、面白い小説を読んだという気分にはならなかった。聖書や地図、風車小屋などアイテムの選び方はほぼ完璧なのだが、これほど肉付け(ディテール、という言葉に置き換えても良いが)の少ない作品は珍しいと思うし、ストーリーもどちらかといえば緩急(ここはゆっくり、ここはスピーディーに……)に乏しく、何かのシナリオを小説風に仕立ててみたような印象を受けた。その印象が決定的になったのは後半で、地図と財宝を巡って登場人物たちが動き出すという展開になっても、物語は不思議と加速しない。考えてみれば乙一の作品においてスピーディーな展開がなされた場面というのはほとんど記憶に無く、こういう虚々実々の駆け引きを加速度的に描くというのは得手ではないのかな、と感じた。あとドゥバイヨル強靭すぎ。
なお、うるさいことは承知の上で言うが、一人称の小説であるなら、52-53ページの展開は本来なら描くことができないはずだ(主人公は上の空で、マルコリーニの話をほとんど聞いていないにもかかわらず、マルコリーニの話は正確に記述される)。こういう記述面のお約束って、もはや軽視されているのだろうか。