初桜 青春俳句講座

青春俳句講座 初桜

青春俳句講座 初桜

女子高生とその師匠の俳人が遭遇した三つの謎。角川学園小説大賞優秀受賞者のデビュー作*1
北村薫を引き合いに出してこの作品について語っているのをネット上で目にしたが、たしかに「日常の謎」連作で、俳句を扱っていることから北村と同じように文芸ミステリの側面も持っているのだけれど、これは北村薫というより、むしろあからさまに京極夏彦だろう*2。あるいは初期の高田崇史か。ただ、京極が妖怪と事件を結びつけたように、あるいは高田が歴史の謎と殺人事件を結びつけたようには、俳句の理念と謎の結びつけは成功しておらず、また構成もつたなく感じられ、楽しめたとは言い難い。まだまだ習作の域を出ていないという印象だが、扱っている素材は面白いので、もう一冊くらいは読んでみたいとも思われた。
なお、筆致から考えて、たぶん著者は中年男性だと思う。地の文で一箇所「みたような」という言い回しが使用されていて、これはさすがに若い人は知らないか、知っていても使わないだろう*3
あと、俳句とミステリを結びつけた先例では、やはりなんと言っても笹沢左保の《俳人一茶捕物帳》シリーズか。松本清張にも作例はいくつかあるし、『俳句殺人事件』というアンソロジー光文社文庫から刊行されていましたね。

*1:カバーイラスト、どこかで見たことがあると思ったら、中村航の装画を一手に引き受けているイラストレーターによるものではないか。

*2:文章作法とキャラクター造形がきわめて京極に近く、住職の俳号が「木馬(きば)」というところなど「あからさますぎる」と思った。

*3:平成に入ってから「みたような」という言い回しを使った新作を発表した作家など、自分の知る範囲内では深堀骨くらいしか記憶に無い。