東京ダモイ

東京ダモイ

東京ダモイ

ザ・昭和の推理小説
別にシベリア抑留を扱っているからというわけではなくて、構成、雰囲気、倫理観、ラストの盛り上げ方などがとっても昭和の推理小説っぽいのだ。読みながら思い浮かべたのが山村美紗だったり森村誠一だったり大谷羊太郎だったり*1と二、三十年前の作品ばかりで、平成らしさがほとんど無い。プロフィールを確認したところ、この作者は綾辻行人宮部みゆき石田衣良よりも年下なのだから、もう少し現代的な視座を作中に盛り込まなければ今後が辛いのではないか、と余計な心配をしてしまう*2
それはさておきいちばん引っ掛かったのは、殺害されるロシア人女性のイメージが最後まで像を結ばないことで、こういうタイプの作品で被害者のイメージがくっきりしないというのはかなりまずいように思う。ミステリとしては、犯人の条件を満たす年齢の登場人物がきわめて少ないために真相の意外性が欠けてしまっていることは大きなマイナスではあるが、五木寛之の中篇「さかしまに」みたいな俳句暗号の解読はなかなか面白かったので、そんなに悪い印象は受けなかった(275ページで明かされるある点にも意表を衝かれた)。しかし正直、記憶に残るのは内容より「東京ダモイ」という素材それ自体だったように思う。
最後にもうひとつ気になった点を挙げておくと、作中に二十代の青年が三人出てくるのだが(シベリア抑留場面は除く)、あまりに頼りない(自費出版専門会社の営業)か馬鹿(死体発見者)か年長者の従順な代弁者(若手刑事)かで、とにかく若い男性がいちばん描けていない。作風と合わせて考えると、作者には若者の文化を否定したい欲求があるのかな、と――牽強付会かも知れないが*3

*1:思い浮かぶのはいずれも初期作品。山村美紗だと、『鳥獣の寺』ってこんな感じの作品でしたよね。

*2:もし二十代の作者がこの作品を書いたとしたら、逆に今後どういう作家に育つかとても楽しみになるなのだが。

*3:ついでに書いておくが、作中で盗作疑惑が浮上する「12歳」の少年の著作のタイトルに「ピエロ」という言葉を使用したのは、ちょっとデリカシーに欠けるように思った。これではほとんどの読者が宝島社のことを思い浮かべるのでは。