TENGU

TENGU

TENGU

昨年の話題作『下山事件 最後の証言』(祥伝社)の著者が放つ異色のミステリ。KAPPAのあとはTENGU*1
しかし作中に登場する怪物を「天狗」と称するのには違和感を覚える。普通の天狗のイメージと怪物とは特徴があまりに違うのだ。前作を踏襲するため無理矢理『TENGU』にしたような感があり、結果として最後まで何だかちぐはぐな印象が残ってしまったのがこの小説の最大の残念な点。次に残念なのは、現代のパートと過去のパートの書き分けが下手な点で、いまどちらのパートを読んでいるのかよく判らなくなる箇所がたびたびあった。もう少し整理してくれたなら、はるかに読みやすくなってさらに面白みが増したと思うのだが。
と、注文をつけたくなる点もあるものの、総じて面白かった。雄大なスケール、過去と現代の世相を結びつける構想の懐の深さ、『KAPPA』(CBSソニー出版)の主人公をつとめた有賀雄二郎とその愛犬ジャックのゲスト出演など、楽しみどころが多い。ラストに待ち受ける真相は少しばかり荒唐無稽だが、荒唐無稽と紙一重の真相を成立させるための土台づくり、つまり綿密な取材が行われているから是としたい。荒削りだが、それも含めて魅力的な作品だと思う。
なお、『TENGU』は『KAPPA』をさらに派手にしたようなイメージの長編だが、個人的には『KAPPA』のような小ぢんまりとしたハードボイルド(あるいは釣りミステリ)も好きなので、あちらの系統の作品も書き継いでいってもらいたいものだ。稲見一良亡き後、あのようなタイプの作品を書ける作者にかける期待は大きいのである。

*1:著者がこれまで発表した唯一の小説にして唯一のミステリ『KAPPA』を踏襲したタイトルだと思われる。