感染

感染 (小学館文庫)

感染 (小学館文庫)

第一回小学館文庫小説賞受賞作。予想以上にまともなミステリだった。
全国の書店にて仕掛け販売中の作品で、たしかに適度に薄くてすらすら読めて面白い。「医療ジャーナリストが描く迫真の医療サスペンス」ということで、版元の傾向もあってミステリとしての完成度はほとんど期待していなかったが(タイトルも正直言ってどうかと思う)、伏線が丁寧に張ってあったり、本当は重大なことが起きている場面をさらりと書き流しておいてあとで驚かせたりと、なかなかコツをつかんでいる感じ。乱歩賞的傾向の作品としては上出来の部類に入るのではないか。
中盤で主人公が事件の鍵を握る登場人物を詰問し、「あと三日待ってほしい」と言われたので待っていたらその人物が殺害されてしまうという、火曜サスペンス劇場も真っ青の定番的展開があって思わず笑ってしまったが、それでもあまり安っぽくならないのには感心した。むしろ、登場人物が割と皆エゴ剥き出しなので、なんだか単細胞揃いのように感じられ、その点でややB級っぽくなってしまっている点が惜しまれる。とはいえ最後の仕上げは柔らかで、こんな処理もできるんだ、と結末にも好感が持てた。
本書が発表されてから四年、未だ第二長編は世に出ていないが、刊行されたら読みたいと思う。