秋の大三角

秋の大三角

秋の大三角

石田衣良センセイはライトノベルをお読みになられたことがなかったようで。
毎回たったひとりの選考委員が授賞作を決める新潮エンターテインメント新人賞の、第一回受賞作品。第一回の選考委員は石田衣良がつとめたということで、帯には「さくさくとクリスピーで、リズムよく読ませる文体。これは天性のものだ!」と、内容には何も触れていないセンセイのお言葉が掲載されているが、ここから考える限り、センセイはライトノベルを読んだことがなかったのではなかろうか。というのも、ほとんどこの作品、集英社コバルト文庫なのだ。詳しいことは言えないが、要は「宝塚+幽霊+ほのかな三角関係」を盛り込んだファンタジーで、文体も合わせ「あ、ほとんどラノベだ」という印象。前に石田衣良ライトノベルに対しあまり好意的ではない発言をしていたことがあったので、逆にこういう作品を彼が選出したことにちょっと驚いた。
しかしこちらとしては別にラノベ(風作品)が受賞作であっても何ら問題ない。しかも受賞者はかつてネット上で、その衝撃の内容で話題を呼んだ連ドラ「仔犬のワルツ」の脚本家なのだ。読まないわけにいかないではないか。というわけで読んだのだが、内容に関してはとくに何も感じるところはなく、細部の処理は滑らかなのだが、逆にそつがなさすぎて印象に残らない。多少バランスを崩してどこかに比重を置くと俄然面白くなってくるような気もするのだが、なんというか残念な作品。
……実は正直を言うと、読み終えても感想文を書く気にならなくて放置しておいたのだが、先日刊行された受賞第一作『雨のち晴れ、ところにより虹』(新潮社)を読み始めてかなりびっくりしたので、慌てて書き留めておく次第。読み終えたら感想を書くが、『雨のち晴れ……』はびっくりするくらい鮮明な作品になっている。