東山殿御庭

東山殿御庭

東山殿御庭

日本推理作家協会賞候補作を含む時代連作集。但し、ミステリとして読めるのは候補作となった「東山殿御庭」一編のみ*1
収録五編はすべて光文社文庫アンソロジーの《異形コレクション》に寄せられたもの。ということはつまり、ここに収録されているのはすべてお題を与えられて執筆されたホラーだということだ。遊園地、地図、人獣……表題作を除いては、濃淡はあるとはいえかなりエグい話が続くので、「協会賞候補作を含む時代ミステリ作品集」と勘違いして手に取らないほうがいい本ではある。しかし、お題を与えられての時代ホラーということでは文句なし。「尊氏膏」「甤」の気色悪さなど絶品だと思うし、その一方で表題作「東山殿御庭」のような、淡い悲しみを湛えた美しい作品も楽しめる。五編の中では比較的地味だが、「応仁黄泉圖」も好みの短編。「地図」というお題で室町時代を舞台にこの作品を書いてしまうところがユニークだ。朝松健は本当に腕を上げたなあ。
なお、この連作にはすべて一休が登場するのだが、作者が以前発表した一休シリーズの長編の内容をそのまま踏襲した文章が含まれていたり、一休の生涯をまるで知らないと存在価値がよく判らないかも知れないキャラクターが説明抜きで登場していたりと、やや戸惑う読者がいるかも知れない。しかし、判らないからといって楽しめない出来ではないと思う。ハイレベルな作品集です。

*1:といっても、この作品も「広い意味での謎解きが含まれている」伝奇作品なのだが。