月が100回沈めば

月が100回沈めば

月が100回沈めば

びっくりするほど無駄の多い長編だった。
中年の作者が青春小説を書こうとするとき、決してやってはいけないことがある。若者に向けた自分の意見や主張を作中に書き込むことだ。それをこの作者はやってしまっている。だから作品の印象が年寄りじみているし、はっきり言って退屈だった。登場人物は呆れるほどみな饒舌であり、全員が作者の代弁者となって意見をべらべら口にする(終盤では主人公がこの作品のテーマを懇切丁寧に説明するが、説明すればするほどどんどん安っぽくなってゆく)。とりわけ饒舌なのがヒロインの女子高生で、このキャラクター、本来なら魅力的なはずなのだが、結局はなんだか微妙に痛々しい。ちなみに彼女は探偵小説のファンらしく、ホームズだのポアロだのと名探偵の名前を口にするが、その彼女が「いま読んでいる」とバッグから取り出すのはジェイムズ・サリスの『黒いスズメバチ』で、あまりの時代の開きに呆然としてしまった。ミステリに詳しくないなら無理にそんなこと書かなきゃいいのに。
全体の三分の一ほど削ってくれれば、雰囲気は樋口有介の諸作に比較的近いのでそこそこ楽しめたはずなのだが、結局饒舌な会話文でぶち壊しになっている。クライマックスは『池袋ウエストゲートパーク』の亜流みたいになっているし、ミステリとしての構成も心もとない。煩わしい部分をすべて剥ぎ取れば繊細な小品になったと思うので、次回作はぜひ本書の二分の一の長さで仕上げてほしいものだ。