ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件

ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件

ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件

ボルヘスとビオイ=カサーレスが共同制作した愉快なミステリ短編集。よく考えればアームチェア・ディテクティヴ。再読。
初読時には当然思わなかったことだけれど、今の見地から見ると成程これは殊能将之が好きそうな内容だと思った*1アヴラム・デイヴィッドスンの『どんがらがん』(河出書房新社)などを読んだ後ではとりわけそう感じられる。アルゼンチンを舞台に、無実の罪で刑務所に入れられている探偵役が謎解きを繰り広げる六つの短編はいずれも馬鹿馬鹿しく、意地の悪い(でも、どこか間の抜けた)ユーモアに満ちている。登場人物が皆どこか奇人なので、ドタバタチックな騒動をぼんやりと追いかけていると、その奇妙な展開や人物の行動の中には一貫した論理が見られました、というオチがつく辺り、ふつうのミステリとして読んでも面白いが、たとえば冒頭の「世界を支える十二宮」は真剣に読んだらバカみたいな結末が待っているので一筋縄ではいかない印象。矢鱈といろいろな国の人物が入り乱れるところも面白く、下手にここから文学性を読み取るよりは、素直にエンタテインメントとして楽しんでおけばそれでOKなのではなかろうか。佳品です。

*1:イシドロ・パロディ→石動戯作ということはある程度有名ですよね?