甘栗と金貨とエルム

甘栗と金貨とエルム

甘栗と金貨とエルム

青春私立探偵小説の意欲作ながら、やや冗長。
『月読』(文藝春秋)を読んだ際にも感じたのだが、この作者の描く男子高校生は潔癖に大人の理論を否定しようと努力していて、却ってリアルから遠のいているような気がする。また、主人公=語り手が高校生ながら「私」の一人称を採用している辺り、本格的な私立探偵小説を書き上げようとした狙いが見られるものの、ハードボイルドとは語り手の感情描写を極力排除する文芸作法ではなかったか*1。しかし主人公は自らの思いや意見を饒舌に吐露してしまうのである。また、別シリーズの主人公である藤森涼子が登場し、彼女の近況が語られる点も、この作品にとっては余計だったように感じた。以上の理由により残念ながら全体的に冗長に感じられた作品。駄作ではないが、ミステリとしてのネタ自体はきわめてシンプルなので、冗長な部分を刈り込んでネタと釣り合う尺で書き上げてほしかった、というのが正直なところ。

*1:私立探偵小説とハードボイルドはイコールではないという説があり、まったくもって同感だが、しかしニアリィイコールではあると思うのだ。