きつねのはなし

きつねのはなし

きつねのはなし

骨董綺譚の秀作集。
読み始めるや否や意表を衝かれた。『太陽の塔』(新潮社)とはまったく異なる、骨董を扱った綺譚集でありながら、予想をはるかに超える上手さなのだ。文章に緩やかな品があり、内容も堂に入ったものである。とりわけ素晴らしいのは表題作で、不気味な余韻を残す天城さんの造形が際立っている(骨董綺譚という面でも収録作品中随一の出来栄えと言える)。二話目「果実の中の龍」はタイトルにもなっている「果実の中の龍」という工芸品が印象的で、これを考え出しただけである程度の完成度は約束されたようなものだ。骨董綺譚なら何と言っても波津彬子の『雨柳堂夢咄』(朝日ソノラマ)が有名だが、本書は先行作とは違う魅力を持つ怪異譚を描き出しており、また収録四編それぞれに異なる方向性の物語を描こうとしている。その意気や良し。
ただし残念なのは、三話目「魔」から内容の緊密度ががくりと落ちるところか。四話目「水神」で多少復調するが、前半部の完成度には及んでいない。どうしてなのかと考えてみたが、おそらくこれは「怪物」という大きなフィクションがまだ上手く描けていないからではないのか。三話目の怪物は正体がはっきりしすぎているし、四話目の怪物は逆に正体があまりにぼんやりしている。
大きなフィクションを描くことにも長けたなら、この作家はますます大きな存在となるだろう。青春小説ばかり手掛けて小ぢんまりとまとまらないでほしいと思う。