白銀の鉄路

白銀の鉄路―会津‐奥只見追跡行 (祥伝社文庫)

白銀の鉄路―会津‐奥只見追跡行 (祥伝社文庫)

サブタイトルは「会津〜奥只見追跡行」。トラベルミステリというか旅情サスペンスというか。
2000年、長編ミステリ『せん‐さく』で活動をスタートし、東京と沖縄を舞台にしたサスペンス『彼方(ニライカナイ)』(残念ながらこれは凡作)を経て巧妙な第三長編『転落』で頭角を現し、東京創元社ミステリ・フロンティアから第四長編『一週間のしごと』を刊行した作家の第五長編は、なぜか文庫書き下ろしのトラベルミステリだった。……謎の軌跡である*1
しかし謎は謎だがどうも作者の鉄子ちゃんぶりは本物らしく、140ページ辺りから開始されるシークエンスは鉄ちゃんでなければ書けないだろうし、また鉄ちゃんでないと真の素晴らしさは判らないような気がする。本格ミステリではなく、アリバイ・トリックが用意されているわけでもないけれど、作品全体からは作者の鉄道にかける愛がひしひしと伝わってくる*2。謎の設定はけっこう異様で面白かったので、この長編が本格的な謎解きにまったく関心を示さない点は残念に感じられたが、追跡サスペンスとしては一気に読めて楽しめた。読み捨て本らしく、あとに何も残さないところも上出来。シリーズ化されたら続きも読むだろう。……ただ、この作家がトラベルミステリに転進して良いかどうかは疑問だけれど。

*1:いま、こういう路線の長編を発表することの不思議さ、というか。

*2:正直、鉄ちゃんではない自分にはよく判らないけれど、たぶんこれは愛の所産だろう。