俳風三麗花

俳風三麗花

俳風三麗花

先般の直木賞候補作。成程、これは秀作だった。
ストーリーは陳腐すれすれを行くもので、それがこの作品の魅力とは到底言い難い。本書の凄みはやはり作者お手製の俳句がストーリーにきちんと合致しているところ、句会の楽しさが丁寧に描けているところ、句会に出席する三人の女性主人公(=三麗花)が個性豊かにくっきりと描けているところ、そして文章の品の良さだろう。これだけ揃えばストーリーが多少陳腐でも充分楽しめるという見本のような作品で、心地良くページを捲りながら昭和初期の風俗に浸ることができた。
昭和初期の空気を描く筆は同じく直木賞の候補となった北村薫『玻璃の天』の完全に上を行くもので、『俳風三麗花』が同じ回の候補になったことは北村薫にとって不運以外の何物でも無かっただろう。しかし、『俳風三麗花』の慎ましやかな佇まいは愛らしく、作者の知名度とは関係なしに本書はたしかに候補に挙げざるを得ない秀作だと思う。言葉の選び方も好ましく、この作品を手にとることができて良かった。あとはストーリーがもっと独創的なものになれば……今後に期待。