裁縫師

裁縫師

裁縫師

川端康成文学賞受賞第一作を収めた短編集。玉石混交だと思うが玉は本当に素晴らしい。
この作品集で強い感銘を受けたのは、ともに十歳前後の少女が主人公となる表題作「裁縫師」と巻末短編「野ばら」だ。とりわけ「裁縫師」の出来は素晴らしく、こんな幼い少女を主人公にしてここまでエロティックな作品が書けるのか、と瞠目させられた。エロティックと言っても、一瞬たりとも下世話に堕さない筆がまた見事で、これは少女の相手となる裁縫師の端正な造形に因るところも大きいだろう。絶妙な結びまで手抜かりは一切感じられない、まさに珠玉という言葉が相応しい傑作である。一方、「野ばら」は、ひたすら寂しい、荒涼としたイメージの作品だが、その荒涼としたイメージを裏切るかのように、結末の一行が見事な効果を上げている。ただ、孤独だから自由という、幼い少女に与えられた力強さの、なんと儚げなことか。澄み渡りすぎた物悲しさが胸を打つ。
この名編二編に続き、なんとなくユーモラスな味わいの「空港」が佳作。つくり話というきらいのある「女神」は出来が一段落ち、幻想的なイメージを無理矢理押し広げすぎて興醒めな「左腕」はさらに落ちる。「左腕」はやはり、川端康成文学賞受賞記念「片腕」オマージュ短編なのだろうか。「片腕」はあまりにも絶妙な作品なので、流石に川端とは役者が違うと言わざるを得ない。