ジョン・ディクスン・カーを読んだ男

ジョン・ディクスン・カーを読んだ男 (論創海外ミステリ)

ジョン・ディクスン・カーを読んだ男 (論創海外ミステリ)

表題作のみが有名だった連作は、決して表題作だけが突出した出来ではなかった。
この連作が書籍化されたことの喜びを噛み締めながら、一編一編丁寧に読んだ。表題作「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」が、ある意味バカミス的なオチ重視の話だったため、他の短編もそうなのかと思っていたら、実は表題作がいちばんパロディ色の強い異色作で、他は小味なパズラーとして読める作品群だったとは! ただ、そうは言ってもやはりオチは重視されていて、パズラーだと身構えなくても気軽に楽しめる。こういうミステリに出合うと嬉しくなってしまいますね。かつてこのようなパロディ趣向の作品では、トーマ・ナルスジャック『贋作展覧会』(ハヤカワ・ミステリ)、マリオン・マナリング『殺人混成曲』(ハヤカワ・ミステリ)、レオ・ブルース『三人の名探偵のための事件』(新樹社)などがあったが、本書のクオリティは群を抜いている。集中では「アガサ・クリスティを読んだ少年」「ジョン・クリーシーを読んだ少女」がとりわけ好み。また、パロディということから考えると「アイザック・アシモフを読んだ男たち」は、まさに本家の謎解きのテイストを如実に踏襲していて見事な出来栄えだと思った。
ボーナス・トラックのノンシリーズでは、「うそつき」が出色。ウィリアム・ブリテンがただのパロディストではないことを充分了解できた。もっと他の作品も読んでみたい。