ロジャー・マーガトロイドのしわざ

ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)

ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)

英国的な、あまりに英国的な。
褒めどころがはっきりしているので評論家筋の受けは良いかもしれないが、単に楽しみを求めて読む普通の読者にはどうだろうか。この作品よりも過剰な試みに挑戦しているT井某やH野某の作品が日本には既にあり、この『ロジャー・マーガトロイド』を好意的に評価するには、「きわめて英国的な」というフィルターを通さなければならない(英国の小説をほとんど読んだことのない読者には、この真相にアデアが込めた皮肉は理解しにくいのではないか)。そういう意味でこれは英国探偵小説の、さらに言えば英国そのもの*1のパロディではないかと感じた。密室状況で恐喝者の死体が発見されても、密室の謎は追求されず、物語は邸の滞在者たちが個々に抱えている秘密の大告白大会と化す。この辺りも、如何にもゴシップ好きの英国人をカリカチュアライズしているようにも思われたが、個人的にはその覗き見趣味的な、露悪的なところが好きになれず*2、中盤は退屈だったと言わざるを得ない。但し、密室の解明にはぽかんとさせられた。なんとまあ、アデアが乱歩みたいなことをやっている。
自分としては、アデアの作品なら『閉じた本』(東京創元社)のほうをお勧めしたいと思うが、この『ロジャー・マーガトロイド』には続編『スタイルの怪事件』があるそうなので(この作品に続編があることにびっくりした)、それが翻訳されるためにも、御興味のある方はどうぞ。

*1:1935年当時の英国か、それとも現代の英国にも引き継がれているのか――については、浅学の自分には判らない。

*2:以前、これと同じような感想を抱いたことがある――と思ったが、そうだマイクル・ディブディンの『ラット・キング』(新潮文庫)だ、とあとで思い出した。人間関係の薄汚さの度合いはディブディンのほうが遥かに上だが。アデアを読んで期せずしてディブディンを思い出した、というのが個人的にはちょっと面白かった。