氷平線

氷平線

氷平線

オール讀物新人賞受賞作を収録した、新鋭のデビュー作品集。
帯には〈新官能派〉とあるが、これは閉塞的な地方社会に生きる女性たちの生き方や暮らしを描いた作品集であって、暮らしであるから性生活も隠さず描いているに過ぎない(興味本位で性を描いてはいない)。北海道(主に道東)が舞台なので、たとえば沖縄を舞台にした小説とは違ってどうしても沈鬱になりがちだが、力量のある書き手なので*1、読み応えのある秀作が揃っている。
和裁の道に進んだ女性の凛とした生き方を、性描写を排して描いた「霧繭」(但し、恋愛話は余計だったような気がしないでもない)、東京から道東の農家に嫁いだ女性の閉塞感を描き切った「夏の稜線」、そして土地の男たち共有の娼婦と主人公の愛の物語「氷平線」の三編がとりわけ読ませる。「氷平線」は集中最も起伏の多い展開を辿る作品でもあるので、派手やかな作品をお好みの方はまずはこれだけ読んでみてもいいだろう。「水の棺」の、全編を包む冴え冴えとした緊張感もいい。
この新鋭作家が、北海道の女性を描き続けた先駆者である原田康子の傘下から逃れられるか、それとも後続に甘んじるかは今後の研鑽次第だと思うが、まずは力のある新鋭の登場を喜びたい。古いタイプの小説の書き手だと思うが、だからこそ最近貴重な存在のようにも思えるので。

*1:但し、受賞作「雪虫」とその後書かれた作品との出来が雲泥の差なので――受賞作は「海外から嫁を買う」というネタの面白さに頼った作品という印象を持った――、おそらくその後かなり研鑽を積んだのだろう。