死者のための音楽

山白朝子短篇集 死者のための音楽 (幽ブックス)

山白朝子短篇集 死者のための音楽 (幽ブックス)

仏つくって魂入れず、という読後感。
ユニークな設定を基にした小器用なアイデア・ストーリー集、という印象を受けた。達者なのは確かだが、展開もユニークに、とはいかなかったらしく、大抵の短編は結末の見当がつく。どんでん返しが仕掛けられているものほど見当がつく。感傷的なラストを嫌う読者はなかなかいないだろうから(かく言う自分も嫌いではないが)文句はほとんど出ないと思われるけれど、ラストを感傷的に、という作者の得意業はパターン化してもいて、手の内はかなり読みやすいのだ。で、読んでいる途中で結末に見当がついてしまうと、オチが明かされるまでの繋ぎのような中盤が割と薄っぺらに感じられてしまうのである。これだけ達者なのだから、もっと端々に「おや」と思わせるような文章表現があったり、人物造形に厚みや面白みがあったりしても良いのではないか。
また、たとえば「未完の像」では、少女が仏像を完成させた後にこそ真の恐怖が待ち受けていたはずなのに(それを描いたら凄まじい傑作になると期待したのに)、作者はそれを描かない。この辺りも、如何にもウェルメイド、という感想を持たざるを得なかった。
そのような中から敢えて一編選ぶとすれば「井戸を下りる」か。この作品のラストの宙ぶらりんな感じは悪くない。誰からも愛されそうなウェルメイドな佳作として「鳥とファフロッキーズ現象について」も印象に残った。