トリック・ソルヴァーズ 哀しみの校歌

トリック・ソルヴァーズ―哀しみの校歌 (トクマ・ノベルズEdge)

トリック・ソルヴァーズ―哀しみの校歌 (トクマ・ノベルズEdge)

営業戦略の勝利。思わず買って読んでしまった。
第三回トクマノベルズEdge新人賞受賞作。帯には「いろんな人に怒られました。いろんな人に誉められました。いろんな意味で、早くも話題騒然」、チラシには書店員(?)の声として「同情も共感もできませんでした」「犯人が出てきたときは驚きというよりあっけに取られてしまいました」「ルールを気にしなければ面白いです」「あのトリックはずるい!」などと書いてある。ここまで言われるとさすがに「どんなミステリだったんだ?」と気になりますよね? そこで敢えて引っ掛かって読んでみたわけだが、正直意表を衝かれた。校歌見立て連続殺人+密室の謎という本格ミステリで、メイントリックはかつて鳴り物入りで翻訳紹介された女性作家の長編に先例があるが*1、まさかトクマノベルズEdgeでこのトリックを読まされるとは! 伏線は割合堅実に張られており(ひとつ「あれ、そんなところに」という伏線が張ってあって楽しい)、また乱暴ではあるが密室の謎なども用意されていて、ミステリとしての骨格は案外まとも、というかそれなりに努力しようとしているのではないかという気がした。
ただ、設定・文章・人物造形いずれも隙が多く、ごく普通の読み物としては評価しにくい。したがって完成度は低いが、次回作も今回くらいのトリックで勝負してくれるなら読みたいと思う。同好の士に「あれ読んだ?」とニヤニヤしながら話したくなる作品。

*1:たしか有栖川有栖にも類似の作品があった。