激走 福岡国際マラソン

これは素晴らしい。しかも、なんと昨年話題になった某作の先駆ではないか。
もう少し、叙情的な文章で描かれていれば……と思わなくもないが、それでもこれは鳥飼作品中、最も広く愛される作品だろう。オリンピック代表選手の最後の一枠を確定する福岡国際男子マラソンを舞台に、各々の選手の秘めた思惑や、レースの駆け引き、そしてその渦中で勃発した事件などをスピーディーに描いており、一気に読める。ミステリとしてもきちんと手の込んだ出来で、主要登場人物のひとりがこのマラソンで何をしようとしているのか、怪死事件の犯人は、殺人だとすれば犯行方法は――などの謎が短い頁数に鏤められ、ラストではそれらが鮮やかに解決される。読み続けるうちレースの勝敗への興味も高まって、ラストでは(なんと!)爽やかな感動まで味わえるのだ。これはまさに不意打ち的な傑作。
選手たちの描き分けもしっかりしたものだし、さらに特筆しておきたいのは、レース開始から幕が開き、ゴール直前で幕を閉じるという構成。この長編はレース中のことしか描いていないのだ。これはなかなか困難なことだと思うが、鳥飼否宇はそれを見事に成し遂げている。感服しました。