イジ女

イジ女(め)

イジ女(め)

秀作の多い第一作品集『ホームシックシアター』(実業之日本社)すら霞みそうな、著者真骨頂の短編集。
「ミーちゃんハーちゃん」「あんぽんたん」「やる気ナッシング」「イジ女(め)」「レッツらゴー」など、各タイトルの脱力系安っぽさがとにかく絶妙。内容のほうも負けておらず、冒頭の「目立とう精神」から早くも素晴らしさ全開である。人物配置が巧みなら主人公の「ちょっとイヤな性格」の匙加減も巧み、地の文で「ばりばりの庶民じゃん」と繰り返してみせる箇所には笑わされた。自分の幸せを他の女に見せつけたい主人公が強烈な織田裕二ファンの旧友と再会する「ミーちゃんハーちゃん」など、設定の段階で既に笑えてしまうではないか。勿論それだけではなく、声だけしか登場しないヒロインの母親の使い方の上手さや、終盤でヒロインのイメージをがらりと変えてしまう辺りの手腕にも注目しておきたい。なかなか巧緻な作品なのだ。「あんぽんたん」に登場するある女の不快指数の高さもいっそ爽快なほど。
日々頑張っているヒロインが、日々まったく頑張っていない年下の恋人と別れる内容の「やる気ナッシング」は、やるせないながらもどこか微笑ましい余韻を残す短編。これとは逆に、表題作「イジ女」は集中最も暗い後味を残すホラーだが、この短編だけあまりにシリアスなため他の作品から浮いているところはやや気になった。
ミステリではなく、ミステリ的な手法をさりげなく使用した作品群という印象だが、この境地(B級精神の鑑?)に到達したら別にミステリとして読まなくても充分ではないか。間違いなく直木賞向きの才能ではないが、そんなことは気にせず己の道を驀進してほしい。