パラダイス・クローズド

パラダイス・クローズド THANATOS (講談社ノベルス)

パラダイス・クローズド THANATOS (講談社ノベルス)

第37回メフィスト賞受賞作。
本書の帯で有栖川有栖が書いているようなこと(「本格ミステリを打ち倒そうとする生意気な新人が現れた」)は微塵も思い浮かばなかった。この作品には本格ミステリへの作者の興味が渦巻いているではないか。興味が無ければこんなものは面倒だから書かないし、そもそも発想しない。きっと作者は本格ミステリが大好きで大好きで仕方がないツンデレさんなんだろうなあ。但しこのツンデレぶりはなかなか恥ずかしいと思うし、饒舌な文章もペンネーム並みに如何なものかと思う。それでも本を投げ捨てることなく読み進めたのは、探偵役をつとめる双子の片割れとお守り役の刑事が、奇矯なキャラかと思いきや案外まともなことを喋っていてそれなりに好感が持てたためだ。最初は煩わしいと感じた魚の薀蓄も途中から結構楽しくなってきて、興味が湧かない事件のほうはさっくり読み飛ばしてしまったが、えーと密室が出てきたんですよね?(うろ覚え)
というのは半分冗談だが、それにしても終盤、双子が喋り過ぎなのには閉口させられた。これを本格ミステリ批評と受け取るならば、「では今後はどうしたら良いのか」という新しいヴィジョンを作品として提示できていない点が大きなマイナスのように思われたし、それほど斬新な批判というわけでもないので面白みは感じられず、読後感はきわめて微妙。本格ミステリに愛がある読者なら、もっと楽しめるのかも知れないが、個人的にはもう少しストーリーの魅力がないと読んでいて辛い。
なお、作中に出てくるゴールディングの『蠅の王』は二回映画化されているが、1990年版は一種の美少年映画としても楽しめるような出来になっていたらしく(公開時には新潮文庫が映画のスチール帯をかけて売っていた)、双子の美少年が主人公の作品を書いたこの作者は、その映画を観ているのかも知れないな、と思った。