嗅覚異常

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今は懐かしき祥伝社400円文庫の一冊。
去年刊行された連作短編集『天使の歌声』(創元推理文庫)と同じ探偵役が登場する中編。頭を打ったショックで嗅覚異常に陥った女性(但し頭部に受けたショックと嗅覚異常のあいだに因果関係が存在するかどうかは定かではない)をめぐる研究者たちの思惑から起きた事件に探偵・嶺原克哉が関わる。ネタそのものはきわめてシンプルだが、シンプルだけにどんでん返しの鮮やかさが際立っていて見事。そしてそれ以上に、結末において事件の構図を一気に反転してみせる手際が抜群に上手い。「ああ、実はこのテーマの作品だったのか」と感心させられたし、きわめて現代的なテーマであって、これに切実さを感じる人も多いはず(ニュースで取り上げられているのを見たこともある)。北川歩実の作品の中でも高いレベルの部類に属するだろう。序盤の読みにくさは気になるが、どんでん返しがお好きな方には楽しんでいただけると思う。