新・探偵物語2 国境のコヨーテ

文庫書き下ろし長編。新刊時に購入し、そのうち読もうと思っていたら六年経ってしまっていた。
カバーには松田優作演じる工藤俊作を思わせる(というか、そうとしか思わせない)人物が描かれているが、周知のようにドラマ版の工藤と小鷹のシリーズ・キャラクターである工藤はまったくの別人であり、世界観にもかなりの隔たりがある。ついでに言えば小鷹自身の『探偵物語』と『新・探偵物語』にもかなりの違いがあって、ロス・マクドナルド的な作品世界を描いていた昭和の『探偵物語』に対し、平成の『新・探偵物語』はよりエンタテインメント性が増し、以前には見られなかった軽みが加わっている。個人的には昭和版のほうが断然好みではあるし、このシリーズの現時点における最高作は内省的な『探偵物語2 赤き馬の使者』(現・幻冬舎文庫)だと思うのだが、『新・探偵物語』も筆に余裕があって悪くない。と言いつつ、『新・探偵物語』の1にはやや期待はずれという印象を受けたので、2にはほとんど期待していなかったのだが、結局は2のほうが好感が持てた。もっとも1を読んだのは新刊時の2000年だから、我ながらかなりあてにならない記憶に頼って判断しているのだが。
 さて、2は前作と同じく全編海外を舞台とし、アメリカとメキシコの国境近辺にまで工藤を出張させている。メインストーリーはきわめてシンプルで、それだけでは長編を支えきれないと判断したのかサブストーリーをいくつも混ぜ込んでいるため、よく言えば盛りだくさんな内容だ。しかし前述のようにメインストーリーはシンプルなまま、メインとサブが有機的に絡み合うということもないため、悪く言えば冗漫で整理されていない長編とも受け取れる。西部史研究家ビル・バークレイ、謎の自動車販売店主任トニー・ニコルズ、不法出国ビジネスのリーダーであるレッドなど魅力的なキャラクターが複数登場し、とりわけサブタイトルにもなっているレッド(「国境のコヨーテ」とは彼のことを指している)は魅力的なナイスガイだが、メインストーリーから考えるとそのレッドも「とくに必要なかったんじゃないか」と思えてきてしまうのが残念。あまり計算することなく、作者はかなり自由気儘に筆を進めていたのではないか。
しかし、ラストの余韻はなかなかのものだし、全編を包むウエスタン調の雰囲気も好ましい。完成度で判断するより、雰囲気を楽しむべき長編だろう。なお、解説で香山二三郎も触れているが、これってジェイムズ・クラムリーの影響下にある作品だよな、と思った。ふだんハードボイルドを読まない人にはお勧めしにくい作品だが、御興味のある方はどうぞ。