ツクツク図書館

ツクツク図書館 (ダ・ヴィンチブックス)

ツクツク図書館 (ダ・ヴィンチブックス)

まずは以下の文章をお読み戴きたい。

すごい変態だ。もはやこのひとは作家ではなく、今この瞬間に変態として生まれ変わったのだ。
「ハッピーバースデー、変態」
「何言ってるんだ」
「さあ、警察行きましょうか」

全編こんな調子(いや、全編変態の話というわけではありませんが)。途轍もなくユニークでキュートな新鋭が現れたものだ。
まず設定からしてユニークなのだ。面白い本をめぐる本好きの人びとを描いた小説が流行しているこの御時世に、館長自ら「うちはね、だめな図書館なんだよ」と語る、つまらない本しか置いていない図書館(意味もなく迷宮じみている)を描いているところが素晴らしい。つまらない本を読むために雇われた勤労意欲ゼロの女と、気の弱い苦労性の館長を中心に、運び屋、語学屋、戻し屋ちゃん、作家、そして「ふぎぃ」としか鳴けない飼い猫たちが繰り広げるストーリーに、実はほとんど意味は無い。意味は無いが面白い。「だってそうでしょ、豆腐作れない豆腐屋なんて意味ないでしょう? つまらない本しか書けない作家なんて、存在意義がないんです!」「いい年なんだから、もう人生に期待してもむだですよ」「うん、そうなんだよね。変態は『変態さんですか?』って訊かれても『はい変態さんです』とは答えないもん。友だちいないひとは『友だち何人いますか?』って訊かれて『二人です』ってリアルな答えできないもん。だからつまり、あんたは作家じゃなくて変態なんだよ」……面白いでしょう?
ただ面白いだけではなく、ちょっとシュールなところがあったり、メランコリックなところもあったりと、いろいろな顔をちらりと覗かせるところも素敵だ。今後何を書くか判らないし、大成するかどうかも判らないけれど、今後の新刊を楽しみにしたい。