とある飛空士への追憶

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

心からの喝采を。
傭兵飛空士に下った命令は、「次期皇妃を水上偵察機の後席に乗せ、中央海を単機敵中翔破せよ」――冷静に考えると、そんなに上手とは言えない作品なのである。架空の世界観が微妙に歪んでいるところがあるし、上空の敵から逃げ惑っている最中に焚火をしたらまずいんじゃないだろうかと思ってしまうし、深窓の令嬢の荷物にビキニの水着が入っているなんてありえない*1
しかし、そんなことはどうでもいいのだ。こんなに爽快な飛行機乗りの話+ボーイ・ミーツ・ガールは久しぶりに読んだ。優しさと矜持を持つ主人公たちの人物造形が素晴らしい。こんな時代だからこそ、こういう騎士道精神的なキャラクターを身近な存在として描くのがどんなに困難なことか。作者はそれを最後まで貫いている。そして、終盤の光景が圧巻。報酬として砂金が登場した途端、この話の締めがどうなるかは容易に想像がつくのだが、それでもやられてしまった。この終幕部分とラストの三行は掛け値無しに素晴らしい。個人的にこういう話が大好物ということはあるけれど、大空と冒険に憧れを抱く男の子は必読。勿論、この出来なら女の子にもお勧めできる。この作者の作品ははじめて読んだが、いやはや見事なものです。

*1:別の意図があって敢えてやっているとは判っているが、いちおう(笑)。