新・本格推理08 消えた殺人者

新・本格推理〈08〉消えた殺人者 (光文社文庫)

新・本格推理〈08〉消えた殺人者 (光文社文庫)

たまに面白いものが収録されているので毎年拾い読みしているアマチュア公募アンソロジー。今年は九編収録されている。
好意を持ったのは二編。堀燐太郎「ウェルメイド・オキュパイド」は文章があまりに都筑道夫めいていてびっくりしたが(文章が他人からの借り物というのはまずいと思うが)、おもちゃの博学と、それをミステリに結びつける手腕が楽しい。真相に納得できたとは言い難くとも、久々にネヴィル・スティードの『ブリキの自動車』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を思い出したりして、楽しい気分にさせてくれた。園田修一郎「シュレーディンガーの雪密室」は、強引さは目立つが意欲的な力作。SF的設定を導入し、ネタを大盤振る舞いしてみせた気前の良さを買うが、但しこの「犯行」の実現可能性はいったいどれくらいあるのだろうか、という点は大いに気になる(この人の作品は毎回どこかに見逃せない弱点がある)。
他の作品についても触れておくと、泉水堯「天空からの槍」はストーリーの丁寧な進行に好感は抱いたが、これは本格ミステリというよりトリック(意外性はほとんどない)を彩りに添えた異世界ファンタジーの習作だろう。探偵役の造形も魅力に乏しい。優騎洸「論理の犠牲者」は人物の性格設定が極端すぎて騒々しく、また「ベルウッドはロボットであり、感情は、無い」という文章が掲載されているのと同じ見開きのページに「ベルウッドは躊躇した」と書いてあるなど凡ミスも目立ち、繊細な配慮が根本的に欠けている。真相に辿り着くまでの過程も雑然としているのが難。獏野行進「ミカエルの心臓」は道具立てはきわめて楽しいが、何をどこまで面白可笑しく書き立てるか判らないフリーライター修道院内に招き入れるばかりか謎解きの協力までしてみせる修道士たちの行動は明らかに変。そもそも修道院にどうしてこんな仕掛けが必要だったのだろうか。「賢者セント・メーテルの敗北」はミステリとしての特徴が薄いせいもあってか、下半身絡みの発想ばかりが目につく。探偵役をつとめる少女(12歳くらい)が「妖艶」と形容されているのを見て失笑してしまった。藤崎秋平「コンポジット・ボム」は、品のよくない残虐趣味的表現以上に会話文の稚拙さがどうにも気になる。ミステリとしては「それ以外考えられないだろう」という結末が待っていて、どうせなら赤川次郎の『プロメテウスの乙女』くらいやってほしかった。(この項加筆予定)